近年、SNSは単なる情報発信の場を超え、情報収集から商品・サービスの購入までを実現する生活インフラへと変化しています。こうした状況を受け、今企業から注目を集めているのが、SNSカスタマーサービスです。SNSを利用することで顧客の利便性を向上できるだけでなく、企業にとっても顧客の声をリアルタイムにキャッチし、迅速に対応できるメリットがあります。
本記事では、カスタマーサービスにSNSを活用するメリットや成功させるポイント、支援ツール、企業の成功事例を紹介します。
SNSカスタマーサービスとは

SNSカスタマーサービスとは、ブランドがFacebookやX、InstagramなどのSNSプラットフォームを活用してカスタマーサポートを行うことです。消費者が使い慣れたプラットフォームで相談対応や質問対応、クレーム処理を行うことで、長時間の電話対応が不要になります。
また、SNSのやり取りを通じて、顧客の声(カスタマーボイス)や反応をリアルタイムに把握できる点も特徴の一つです。
SNSカスタマーサービスのメリット

顧客とリアルタイムでコミュニケーションが取れる
SNSの大きな強みは、顧客と迅速にコミュニケーションが取れることです。MMD研究所と株式会社PKSHA Technologyの調査では、46%の消費者がカスタマーサポートで「対応の早さ」を重視すると回答しており、迅速な対応が顧客満足度を左右することがわかります。SNSを活用すれば、顧客の問い合わせや投稿に即座に対応できるだけでなく、自社サイトのサーバーダウンといった緊急性の高い情報もリアルタイムに配信できます。
多様なコミュニケーション手段を提供できる
従来の問い合わせ先に加えてSNSも顧客窓口とすることで、顧客は自身の好みや状況に応じて、コミュニケーション手段を選ぶことができます。たとえば、緊急性の高い問い合わせにはSNSや電話を、急ぎでない問い合わせにはメールを使うなど、使い分けができるようになるため、顧客の利便性向上につながります。実際に、アクセスのしやすさを理由に、Xで顧客対応している企業は顧客満足度が平均19%向上したという報告(英語)もあります。
ブランドへの信頼とロイヤルティを高められる
SNSでの迅速かつ丁寧な問い合わせ対応や口コミへの返答は、ブランドの信頼につながり、ブランドロイヤルティの向上やLTVの増加に効果があります。実際に、約75%の消費者は優れたカスタマーサービスを提供している企業からより多く購入していることがわかっています。誠実なコミュニケーションを積み重ねることで、顧客との関係が深まり、継続利用やリピート購入が期待できます。
SNSカスタマーサービスを成功させる8つのポイント

1. 適切なチャネルを選ぶ
SNSを活用したカスタマーサービスでは、顧客が主に使用するチャネルで対応することが重要です。消費者の40%が普段使用しているチャネルでの対応を望んでいることからも、適切なチャネルを選ぶことで、ニーズに応える顧客体験が提供できます。
ソーシャルリスニングツールや各SNSの検索機能を使うと、ブランドに対するタグ付けや言及が多いチャネルを把握できます。チャネルを選定したら、アカウント担当者、対応時間、対応範囲など運用体制を整えましょう。闇雲にすべてに対応するのは莫大な時間を消費してしまうことになるので、どこまでの範囲で対応するのかを明確にしておくと効率的な運用につながります。
2. 専用のサポートアカウントを活用する
サポート専用アカウントを設けると、顧客に必要な情報をスムーズに届けられます。メインアカウントでは、販促情報などさまざまな情報が入り交じっています。配信先を使い分けることで、重要な情報が埋もれてしまうのを防ぐことができます。
また、サポートアカウントと明記しておくことで、問い合わせの心理的ハードルが下がり、顧客にとって相談しやすい環境を整えられます。
3. 回答までの待ち時間を明確にする
営業時間や返信目安を明記しておくことも、顧客満足度の向上に欠かせません。前述のMMD研究所の調査では、44.7%の消費者が「問題解決までの早さ」をカスタマーサービスで重視すると回答しています。あらかじめ情報を提供しておくことで、顧客の不安を和らげ、離脱防止につながります。
サポートアカウントの運用では、次のようなポイントを押さえましょう。
- 返信の目安時間を提示する:「通常◯時間以内に返信」などわかりやすく伝える
- プロフィール・固定メッセージを活用する:顧客が見つけやすい位置に重要な情報を提示する
- 自動返信機能を利用する:Xの「クイック返信」などを利用して、受信したことを即時通知する
4. トーン&マナーを整える
SNSで一貫したコミュニケーションを行うためには、トーン&マナー(トンマナ)を明確にしておくことが重要です。言葉遣いやコミュニケーションの姿勢を統一することで、ブランドイメージの定着につながり、顧客ロイヤルティの向上が期待できます。
担当者ごとのぶれを防ぐために、あらかじめブランドの指針をまとめたブランドガイドラインを作成し、どの表現を使い、どこまで柔らかい言い回しを許容するのかを整理しておきましょう。定めたトーン&マナーは、投稿だけでなく日々の問い合わせ対応にも無理のない範囲で取り入れることで、SNS全体の統一感がさらに高まります。
5. 顧客の感情に寄り添った対応を心がける
SNSカスタマーサービスでは、感情への配慮が欠かせません。問い合わせには、戸惑い、不安、不満など、さまざまな気持ちが含まれています。顧客の声に耳を傾け共感を示すことで、「理解されている」という安心感が生まれ、信頼関係の構築につながります。
次のようなポイントを意識し、顧客に寄り添った対応を心がけましょう。
- 不満を軽く扱わない:些細に見える問題でも丁寧に扱う
- 温度感を読み取る:メッセージのトーンに応じて距離感を調整する
- 柔軟に対応する:深刻な話題には慎重に対応し、軽い相談には過度に堅苦しくならないようにする
- チームで方針を共有する:一貫した対応のため、想定されるケースに応じた対応方法をあらかじめ決めておく
6. 状況に応じて非公開窓口に誘導する
SNSだけでは問題解決できない場合に備えて、最終的な対応先として、非公開のサポート窓口を決めておくことも大切です。SNSは公開性が高く、誰でもやり取りを閲覧できます。問い合わせ内容によっては公開された場での対応が不適切なケースもあるほか、SNSによっては投稿やメッセージの文字数に制限がある場合もあります。状況に合わせて問い合わせフォームやカスタマーサポート窓口に誘導できるよう、体制を整えておきましょう。
非公開のサポート窓口に誘導した方がいいケースは次のとおりです。
- やり取りが長くなりそうな場合:SNS上では会話が分断されやすく、誤解のもとになる
- 個人情報が必要になる場合:住所・氏名など個人を特定できる情報はDM・電話・メールで収集する
- 詳細な説明が必要な場合:SNSの文字数制限では十分な案内ができないため、別途メールなどで対応する
- 落ち着いた対話が必要な場合:非公開の方が顧客も状況を説明しやすい
7. よくある質問には事前に対処しておく
頻繁に寄せられる質問は、あらかじめFAQにまとめておくと効果的です。問い合わせ対応の負荷を軽減できるだけでなく、顧客自身が問題を自己解決しやすくなり、利便性向上にもつながります。実際に、アルティウスリンク株式会社の調査では、80%以上の顧客はサポートに問い合わせを行う前に自己解決を図ることがわかっています。
まとめたFAQは、顧客が参照しやすいよう、サポート専用アカウントのプロフィール欄や固定ページに掲載しておきましょう。
8. ネガティブな投稿にも真摯に対応する
ネガティブな投稿を発見した場合も、真摯に向き合うことが重要です。顧客を軽視した対応をしてしまうと、さらなる非難を受けるおそれがあります。反対に、冷静かつ誠実に対応することで、信頼回復やファン化につながる可能性があります。まずは相手の状況を受け止め、次のようなポイントを意識しながら、丁寧に寄り添う姿勢を示すことが大切です。
- 苦情を放置しない:投稿内容の大小にかかわらず、ネガティブな意見には必ず対応する
- 防御的にならない:言い訳に聞こえるような発言は控え、顧客の立場や感情を理解することを優先する
- 発見した投稿にも反応する:直接の問い合わせでなくても、気づいたものには丁寧に対応する
- フォローアップする:提示した対応で解決できたか、後日フォローアップを行う
SNSカスタマーサービスツール3選
膨大な投稿の中から自社に関するコメントをすべて拾い上げるのは容易ではありません。そこで活用したいのが、SNS管理ツールです。自社に言及している口コミや投稿を効率的に収集でき、SNSカスタマーサービスに役立てることができます。ここでは3つのSNS管理ツールを紹介します。
1. Mimamorn(ミマモルン)
Mimamornは、エフェクチュアル株式会社が開発した、SNSやウェブ上の投稿を一元監視するモニタリングツールです。X、Instagram、Facebookなど複数媒体を横断してブランドへの言及を収集し、AIと専門スタッフによる確認で精度の高い監視を実現します。口コミを把握できるだけでなく、ネガティブな投稿の早期検知も可能なため、迅速な対応につながり、クレーム拡散を防ぐことができます。
2. コムニコ マーケティングスイート
コムニコ マーケティングスイートは、株式会社コムニコが提供するSNS管理ツールです。SNS運用を一元化できる機能に加えて、複数アカウントのコメントやメッセージを一覧で確認できます。問い合わせを漏れなく把握でき、迅速な返信体制を整えられるのがメリットです。また、Instagramの口コミ分析などカスタマーサービスに役立つ機能も搭載されています。
3. Social Insight(ソーシャルインサイト)
Social Insightは、株式会社ユーザーローカルが運営するSNS分析・運用ツールです。SNSやブログなど広範囲を対象としたソーシャルリスニングと、投稿管理・分析をこのツールだけで実施できます。SNS上の言及を継続的に収集できるため、顧客の悩みや不満をいち早く把握し、改善に活かすことができます。
SNSカスタマーサービスの成功事例
1. コープ共済連
日本コープ共済生活協同組合連合会では、膨大な電話問い合わせに対応するため、LINEでのチャットサポートを導入しました。FAQと連動したチャットボットが一次対応し、必要に応じて有人チャットへ引き継ぐ仕組みです。時間外の問い合わせにも対応でき、利用者の自己解決率が高まり、コールセンターの負荷軽減にもつながっています。
2. アスクル
アスクル株式会社は、「アスクルお客様サービスデスク」というXのアカウント上でカスタマーサポートを行っています。サービスデスクでは、配送状況の確認、商品の使用方法、商品の不具合など、メンションされたさまざまな問い合わせに回答しています。また、問い合わせの回答以外にも、アスクルに関する感想やクレームの投稿も自ら見つけ出し、対応を行っています。リアルタイム性の高いSNSを活かし、迅速な案内と問題解決につなげている好例です。
3. ソフトバンク
ソフトバンク株式会社は、「Softbankサポート」というXアカウントを運用しています。商品・サービスに関するよくある質問に回答しているほか、トラブルへの対処法を配信しています。また、サポートサイトのURLも固定表示されており、顧客の自己解決を支援する体制が整えられています。
まとめ
SNSカスタマーサービスは、顧客の疑問や不満に迅速に対応し、顧客との信頼関係を構築するうえで有効な施策です。効果的に運用するには、まずは顧客が日頃利用しているチャネルを把握し、適切な窓口を整えることが重要です。対応範囲やトーン&マナー、非公開チャネルに切り替える基準など、基本的な運用ルールを明確にしておくことで、一貫した対応が可能になります。
まずは1つのSNSから始めて、ノウハウが蓄積したところで徐々に他のSNSにも展開していくと、自社の負担を抑えながら運用できます。フォロアー数が増えて自社への言及が増えてきたら、SNS管理ツールの導入も検討してみましょう。顧客の声を取りこぼすリスクを軽減でき、より質の高い顧客対応を実現できます。
状況に合わせた運用が、SNSカスタマーサービスを成功に導く鍵となります。
SNSカスタマーサービスのよくある質問
SNSカスタマーサービスとは?
SNSカスタマーサービスとは、ブランドがFacebook、X、Instagram、LINEなどのSNSを使って問い合わせ対応やサポートを行うことを指します。消費者が普段使っているチャネルでアドバイスや回答を提供できるため、利便性の高い顧客対応ができます。
SNSでカスタマーサービスを提供する際のポイントは?
- 顧客が日頃使用しているSNSを特定し、サポート専用アカウントを設ける
- 対応時間や返信目安を明示する
- 対応範囲、トーン&マナー、非公開チャネルへ切り替える基準を設定する
- よくある質問をまとめておき、固定ページに掲載する
- 顧客の感情に寄り添った対応を心がける
SNSでクレーム対応する際に注意することは?
- ネガティブな投稿は大小かかわらず、必ず返信する
- 言い訳に聞こえるような発言は控え、顧客の立場や感情を理解することを優先する
- 内容が複雑な場合や個人情報を収集する必要がある場合は、DMやメールなど非公開窓口に誘導する
- 対応後はフォローアップを行い、提示した対応で解決できたかを確認する
文:Norio Aoki





