少子高齢化による労働力の減少や働き方改革が求められる現代では、限られた人員や時間で高い生産性を維持することが不可欠になってきています。
生産性を向上させることで、ワークライフバランスが整って人材が定着する、インプットしたりアイデアを考えたりする時間的・精神的な余裕ができ、さらなる生産性アップにつながるなどの好循環も生まれます。実際、ソフトバンク創業者の孫正義氏は、休日には歴史や経済の本を読み、未来を見通すための時間を設けています。
本記事では、個人事業主でもすぐに取り組める生産性向上の具体策から、チーム全体の効率を上げる方法、さらに便利なツールの活用法まで解説します。
生産性向上とは

生産性向上とは、投入した資源(人員・時間・製品など)に対して得られる成果(売り上げ・販売量・付加価値など)を最大化することです。
生産性は、「アウトプット ÷ インプット」で求めることができます。インプットは投入される資源、アウトプットは最終的に得られる成果です。
生産性向上の取り組みは大きく2つの方向に分けられます。
- インプットを減らす
- アウトプットを増やす
自社の状況に応じて適切なアプローチを選択することが、生産性向上につながります。
生産性を測定する2つの方法

労働生産性
労働生産性とは、1人1時間あたりの生産個数など、目に見えるものを測る指標です。「生産量 ÷(従業員数 × 労働時間)」で求められます。
例えば、5人が8時間で100個を作る場合の労働生産性は2.5個/時間ですが、同じ条件で150個作れれば3.75個/時間となり、生産性が向上したことが分かります。
付加価値生産性
付加価値生産性とは、1人1時間あたりでどれだけの価値を生み出しているかを示す指標です。「付加価値額 ÷(労働者数 × 労働時間)」で算出されます。また付加価値額は「売り上げ - 外部購入費用(原材料費・外注費・物流配送費など)」で求められます。
5人が8時間で100個生産していて、売り上げ400,000円、原価200,000円から、売り上げ500,000円、原価150,000円になった場合を例に考えてみましょう。
この場合、付加価値額は200,000円から350,000円になるため、付加価値生産性は「200,000円 ÷ 40時間 = 5,000円」から「350,000円 ÷ 40時間 = 8,750円」となり、同じ労働量でより高い付加価値を生み出せているため、生産性が向上したと判断できます。
生産性を向上させる6つの取り組み

業務の棚卸をする
日常業務を書き出して全体像を把握しましょう。その際、現場スタッフの話も聞くことで、管理者の視点では見えなかった無駄なコストや工程を発見できる可能性が高まります。
例えばECサイトの運営では、商品登録の工程を担当者と共に整理することで、外注や自動化によって効率化できる業務を特定しやすくなります。
業務プロセスを標準化する
業務をマニュアル化し、誰が担当しても一定の品質を維持できる仕組みを整えましょう。手順の違いによる時間の無駄や成果物のばらつきを防ぐことで、生産性の向上につながります。
例えば、新規顧客登録のプロセスをマニュアル化すれば、作業ミスを未然に防ぎ、修正にかかる時間の削減が期待できます。
ToDoリストを活用する
事業運営には多くの作業が伴うため、ToDoリストを作り優先順位をつけることで、効率的に取り組めます。
ToDoリストの作成方法の一つに、「アイゼンハワー・マトリクス」があります。これは「緊急度」と「重要度」の2つの軸でタスクを分類し、4つの領域に振り分ける手法で、作業の優先度や不要な作業を洗い出せるため、生産性向上の取り組みに役立ちます。
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緊急かつ重要なタスク:優先的に行うタスク
ECサイト運営の例:サイトのシステム障害対応、配送トラブルの解決 -
緊急だが重要でないタスク:すぐに完了する必要があるものの必ずしも自分が行う必要がないタスク
ECサイト運営の例:顧客からの一般的な問い合わせ対応、在庫数の更新作業 -
緊急でないが重要なタスク:実行計画を立てて行うタスク
ECサイト運営の例:新商品の企画や仕入れ戦略、SEO対策やサイト改善 -
緊急でも重要でもないタスク:必要ないタスク
ECサイト運営の例:過去データの細かな整理、不要なメールの確認

チームの意見を聞く
生産性を高めるためには、コミュニケーションの活性化も欠かせません。従業員からの声を積極的に取り入れることで、作業環境や業務フローの改善につながります。
例えば、従業員に「どうすれば仕事がもっとやりやすくなるか」といった意見を聞いてみましょう。
先延ばしを防ぐ
モチベーションや効率の低下などの悪影響を与える先延ばしを防ぐのも生産性を向上させる取り組みの一つです。時間と手間がかかりそうなタスクも、細かく分解して明確にすれば取り掛かりやすくなります。
「まずは5分だけ」と時間を区切って取り掛かるのもよいでしょう。また、本来の期限より少し早い締め切りを設けて、二段階で締め切りを設定したり、小さなご褒美を用意したりして、モチベーションを保つのも有効です。
作業時間を決める
タスクに取り組む時間を決めるのも生産性向上に向けた取り組みとして大切です。集中したい時は、カレンダーを「予定あり」に設定してメールを開かないようにすれば、まとまった時間を確保しやすくなります。
また、自分の集中力が最も高まる時間帯を活用することも大切です。例えば、午前中に集中力のピークがくる場合は、負荷の高いタスクを朝のうちに優先して取り組むとよいでしょう。
さらに、集中を妨げるものはデスクから遠ざけ、整理トレーなどを活用して机上を整えるなど、作業に専念できる環境づくりを意識しましょう。
生産性向上に役立つツール

生産性を向上させるには、時間を節約し、作業効率や進捗状況を把握するのに役立つツールを活用するのも有効です。
特に次のようなツールがおすすめです。
- コミュニケーションツール:Slack(スラック)のようなビジネス向けコミュニケーションツールは、チーム間のやり取りを円滑かつ迅速にします。プロジェクトやトピックごとの専用チャンネルを作成すれば、情報共有や意見交換を効率的に行えます。
- カレンダーアプリ:Googleカレンダーなどを使えば、会議の設定や時間の区切りを作成できるほか、チームメンバーの空き状況をすぐに確認できるため、スケジュール調整を効率的に行えます。
- 時間管理ツール:Backlog(バックログ)のようなツールは、タスクの進捗確認や時間管理の改善に役立ちます。どこで時間を無駄にしているかを把握し、その原因を特定できます。
- ドキュメント共有ツール:Dropbox(ドロップボックス)といったクラウド型のファイル保存・整理ツールを使えば、文書をメールでやり取りする手間を省けます。
- 集中力を高めるツール:ポモドーロテクニック(25分の集中作業と5分の休憩を繰り返す時間管理法)を用いて生産性向上をサポートしてくれる、Focus To-Do(フォーカストゥードゥー)のようなツールもおすすめです。作業日を集中できる作業期間と短い休憩に分け、効率的にタスクを進められます。
- タスク管理アプリ:Todoist(トゥードゥーイスト)のようなタスク管理アプリを使えば、タスクをToDoリストに整理していつでも確認できます。四半期・月次・週次などスケジュールにすることで、タスクの抜け漏れを防ぎながら効率的に管理できます。
- プロジェクト管理ツール:Asana(アサナ)やTrello(トレロ)のようなプロジェクト管理ツールは、チーム内のコミュニケーションを効率化し、重要なタスクやステップを見逃さないようサポートします。
- 校正ツール:Shodo(ショドー)やTypoless(タイポレス)のようなアプリを使えば、文書のエラーを特定して修正箇所を提案してくれるため、校正にかかる時間を大幅に節約できます。
- クリエイティブツール:Canva(キャンバ)やFigma(フィグマ)といったクラウド型ツールは、バナー作成などのデザイン業務をチームでスムーズに確認・修正できます。
- マーケティング自動化ツール:Social Insight(ソーシャルインサイト)のようなSNSスケジューリングツールやShopifyメールのようなメール自動化ツールを活用すれば、デジタルマーケティングを自動化できます。
まとめ
生産性を高める取り組みには、「作業時間を決め環境を整える」といった一人で取り組めるものから、「業務プロセスを標準化する」など周囲の協力を必要とするものまで、幅広い方法があります。
また、生産性向上にはツールの活用も有効です。無料トライアルを提供しているツールも多いため、自社の状況や使いやすさなどを確認しながら、段階的に取り入れていくと良いでしょう。こうした多様な取り組みを継続的に積み重ねることで、生産性向上につながっていきます。
生産性の向上に関するよくある質問
生産性向上の取り組みで個人ができることは?
- ToDoリストを作って作業に優先順位をつける
- 作業時間を決めて集中できる環境を作る
- 先延ばししないように小さなご褒美を用意する
生産性向上と業務効率化の違いは?
生産性向上と業務効率化の違いは、生産性向上が成果(アウトプット)を増やすことに焦点を当てるのに対し、業務効率化はその過程(インプット)を減らし、無駄をなくすことを目指す点にあります。
生産性向上のメリットは?
- コスト削減
- 利益拡大・顧客満足度向上
- 従業員のモチベーション向上
- 人手不足への対応
生産性向上の取り組みで成功した企業の事例は?
- ブリヂストン:短時間の立ち会議など目的に応じた会議スペースを増設し、業務効率化に成功、年間平均休暇取得日数を約3日増加
- ヨネックス:需要予測や販売計画に特化したソフトウェアを活用し、約2割の業務効率化に成功
- ダイニチ工業:各営業所のアフターサービス業務を本社コールセンターへ集約し、残業時間削減と休暇取得環境の改善を実現
- クボタ:営業活動報告のクラウド化とMAP機能活用による訪問状況の可視化で営業効率を大幅に改善
休憩を取ることで生産性は向上する?
研究によれば、5分ほどの短い休憩でも生産性は高まり、軽い運動や自然光を取り入れるとさらに効果が増します。休憩を取り入れている人の方が、生産性の低下を防ぎやすいことも分かっています。
文:CANAL Kasai





