企業同士が協業する共同マーケティングでは、顧客基盤やリソースを共有することで、これまでコスト面などの要因から実現が難しかったキャンペーンも展開可能になります。
企業規模に関係なく、双方が持つ価値を提供し合うことで、新規顧客の獲得や既存顧客のエンゲージメント強化につなげることができる、優れたマーケティング戦略です。
この記事では、共同マーケティングの概要やメリット、手順を成功事例と共に紹介します。
共同マーケティングとは

共同マーケティング(コ・マーケティング)とは、2つ以上の企業が協力し合い、互いの商品やサービスをプロモーションするマーケティング手法のことです。相互利益のある戦略的パートナーシップを組むことで、双方が新しい顧客層にリーチし、より効率的にマーケティングを実施できるのが特徴です。
共同マーケティングは、互いに価値を提供し合える限り、双方のサービスや企業形態にかかわらず実施できます。重要なのは、自社とパートナーの間で「価値の交換」が成立するポイントを見つけることです。
共同マーケティングは共同ブランディングと同じ?
共同マーケティングは企業が協力して互いの商品・サービスを宣伝する施策であるのに対し、共同ブランディングは、2つ以上の企業がそれぞれのブランド価値(ロゴ、ブランド名、市場での評判など)を掛け合わせて、1つの製品やサービスを共同で作り上げる取り組みを指します。共同マーケティング施策の一環として、共同ブランディングによる商品開発が組み込まれるケースもあります。
共同ブランディングの例として、日本を代表するファッションブランドのイッセイ ミヤケとAppleのコラボレーションによるiPhone Pocketがあります。
共同マーケティングのメリット

- リーチ拡大:各社の顧客基盤を共有し、新たな層にアプローチできる
- コスト削減:リソースを持ち寄ることで、マーケティングコストを抑えられる
- 売上拡大:相互送客により、販売機会を広げられる
- 認知向上:知名度のあるブランドとコラボレーションすることで、ブランド露出を高められる
- 価値向上:異業種連携により、顧客体験とネットワークを拡張できる(例:レッカー業者と修理工場が連携することで、トラブル発生から修理完了までスムーズなサービス提供が可能になる)
- 関係強化:パートナー企業との継続的な協業を通じ、長期的な信頼関係を築ける
共同マーケティングの5つの成功事例
1. 株式会社ジュン × ストレンジャー・シングス
ファッション製品の企画、製造、販売を行う株式会社ジュンは、Netflixの人気シリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」とコラボし、期間限定のポップアップストアを開催しました。オリジナルグッズの販売、カフェメニューの提供、フォトスポットの設置など、ストレンジャー・シングスの世界観に没入できる空間を演出しました。
ジュンの企画力や製造・販売力と、ストレンジャー・シングスの認知度の高さの双方の強みを活かしたことで、リーチ拡大やファンエンゲージメントの強化に成功した事例です。
2. untule × NTTパビリオン
株式会社キャロットカンパニーが展開する完全遮光日傘ブランド「untule(アントゥーレ)」は、大阪・関西万博のNTTパビリオン来場者向けに日傘の無料貸出を実施しました。キャロットカンパニー側は、商品の強みである遮光・遮熱性能を大々的に訴求することに成功し、パビリオン側も、暑さによるストレスを軽減させ、来場者満足度の向上につなげました。万博という大規模イベントを効果的に活用した施策です。
3. スカイマーク × ネスレ
航空会社のスカイマーク株式会社とネスレ日本株式会社は「また乗りたくなる空の旅プロジェクト」を共同で実施しました。ネスカフェとスカイマーク限定デザインのキットカットを機内で無償で提供したほか、スカイマークを舞台にした映画をネスレシアターで上映するなど、さまざまなサービスを展開しました。
ネスレ側はサンプルを通じて全国の潜在顧客へリーチでき、スカイマーク側は顧客体験の向上が図れる、優れた共同マーケティング施策となりました。
4. 株式会社船場 × コクヨ株式会社
空間づくりを国内外で展開する株式会社船場と文具・オフィス家具・空間デザインを手掛けるコクヨ株式会社は、空間設計・施工とオフィス家具・ワークスタイル提案の強みを掛け合わせ、国内外の空間構築事業で競争力を高めるため業務提携を締結しました。
両社のネットワークとノウハウを活かし、家具と工事を一体で提供することで、アジアを中心としたグローバル展開を見込んでいます。コクヨのワークプレイス構築力と営業ネットワーク、そして船場の設計・施工力を組み合わせることで、双方にとってブランド価値の向上やリーチの拡大につながる優れた事例です。
5. エポスカード × My Little Box
株式会社エポスカードでは、カード保有者が「ご褒美ボックス」のサブスクリプションサービスMy Little Box(マイリトルボックス)を初めて利用する場合、定期便の初回ボックスが1,000円オフになるクーポンを提供しています。エポスカードでの支払いを条件とすることで、エポスカードにとってはカード利用率の促進や若年層・女性層の獲得、My Little Boxにとっては、エポスカード利用者へのリーチ拡大につながる施策となっています。
共同マーケティングの5つの手順

1. 目標を設定する
まずは、共同マーケティングを通じて何を達成したいのかを明確にすることが大切です。ブランド認知度の向上を狙うのか、異業種連携によるサービス価値の拡大を目指すのかなど、目標がしっかりと定まることで、パートナー選定や取り組むべき施策の方向性が判断しやすくなります。
2.パートナー候補を選定する
候補企業のリストアップは、自社のビジョンや目標にマッチしていて、なおかつお互いに価値提供し合える相手かを見極める重要な工程です。自社の強みや価値を明確にした上で、業界イベントやオンラインプラットフォームを活用し、候補企業を探しましょう。SNSやウェブサイトなどでブランド戦略や実績を確認して、共創の可能性を見極めるのも大切です。
また、自社が新しい市場に進出する場合は、その市場に詳しいパートナーなども視野に入れて検討すると良いでしょう。
次のようなポイントを基準に選定すると、相互利益をもたらすパートナーが選びやすくなります。
- ターゲット層が近い、または補完関係にあるか
- 自社のブランドイメージと合うか
- 一定規模のオーディエンス(メールリスト、SNSフォロワーなど)がいるか
- 企業規模が同等、または差があっても条件が合えば協業できそうな相手か
- 自社の資産やUVPが価値をもたらす相手か(製造力、顧客基盤、社会的インパクト、ブランド価値など)
3. 共同マーケティングを提案する
充分なリサーチができたら、パートナー候補に連絡し、具体的なマーケティング戦略を提案しましょう。この際、自社が提供できる価値や相手のビジョンへの理解を明確に示すことが重要です。連絡手段はメールに限らず、電話やSNSなど相手に合った手段を選ぶことで、円滑な関係構築につながります。
4. キャンペーンやプロモーションの内容を決める
協業に前向きなパートナーが見つかったら、打ち合わせを行い、共同マーケティングの詳細を検討します。利益分配や共同ブランディングを伴う場合は、書面や契約書を作成した上で詳細を確認する方が良いでしょう。話し合いの際は、次のようなポイントをすり合わせておくことで、混乱や誤解のない施策が実施できます。
- キャンペーンの内容
- 双方がどのようなメリットを得るのか
- 役割分担(双方が提供するリソースやアセット)
- 取り組みの目的やゴール
- パートナーシップの期間と終了時期
5. 共同マーケティング施策の成果を測定する
キャンペーンやプロジェクトが終了したら、次の施策に活かせるよう、効果測定を実施します。特に顧客獲得や売上を目的とした共同マーケティングの場合、次のような指標を活用すると成果を可視化できます。
- 共有するマーケティングチャネルからの流入:UTMパラメータを設定してトラッキングする
- 新規顧客数および売上:UTMパラメータの活用やキャンペーン専用の割引コードを使用することで把握できる
- SNSでのエンゲージメント:専用のハッシュタグやパートナーブランドへのタグ付けで確認する
- プレスリリース配信によるメディア露出:被リンクや参照トラフィックの分析、Googleアラートの設定によってモニタリングできる
こうしたデータを活用することで改善点が把握でき、回数を重ねるごとに、共同マーケティングの精度を高めることができます。
まとめ
競争の激しいビジネス環境において、共同マーケティングは、企業同士が協力することで成長を生み出せる優れたマーケティング戦略です。特にリソースの限られたスモールビジネスにとっては、価値観やターゲット層が近いブランドと資産を共有することで、単独では得られない成果を実現できます。
まずは目標を明確にし、それに応じたパートナーやキャンペーンを選びましょう。実施前には双方にとってのメリットがある施策となるようすり合わせを重ね、実施後は成果を測定し改善を重ねることが重要です。データを元に運営することで、より効果の高い共同マーケティングにつながります。
共同マーケティングに関するよくある質問
共同マーケティングとは?
共同マーケティングとは、2社以上の企業が協力し、それぞれの顧客に向けて商品やサービスをプロモーションするマーケティング施策です。
共同マーケティングとアライアンスの違いは?
共同マーケティングは企業が連携し商品・サービスを売り込む施策であるのに対し、アライアンスは技術開発、製造、物流など広範囲にわたる協力関係を指します。共同マーケティングではプロジェクト単位での連携が一般的ですが、アライアンスを結んだ場合、協力関係は長期におよびます。
共同マーケティングパートナーを見つけるには?
パートナー候補は、業界のネットワークやオンラインプラットフォームなどで探すことができます。また、すでに交流のある企業に連絡を取り、共同マーケティングに興味があるか問い合わせてみるのも良いでしょう。
共同ブランディングと共同マーケティングの違いは?
共同ブランディングは、複数企業が協力して1つの商品やサービスを共同開発することです。一方、共同マーケティングは、複数企業が互いの商品やサービスをそれぞれの顧客に向けて宣伝することを指します。
ECブランド向けの共同マーケティングのアイデアは?
ECブランドでは、以下のような共同マーケティングを展開できます。
- 他のブランドとギフトセットを共同開発して販売する
- 他のECブランドと共同セールを実施する
- お互いの顧客が注文した際に、相手企業の無料サンプルを同梱する
文:Miyuki Kakuishi





